雨龍とは? & 大宮華紋ハンカチ

伝説上の動物、架空の動物として最も有名なものは恐らく「龍」であろう。
家紋でも「龍紋」は存在している。中でも一際面白いのが「雨龍」という存在である。
龍には階級が存在し、その最下級に属するのが雨龍であり、「璃龍(ちりゅう)」と呼ばれる。

左雨龍 右雨龍 入れ違い雨龍 三つ雨龍
左より、「左雨龍」「右雨龍」「入れ違い雨龍」「三つ雨龍」

では、雨龍(璃龍)とは一体何なのかということを簡単に解説しておく。

【読み方】
その読み方がだが、実際の所は非常に安定していない。
「あめりゅう」「あまりょう」「うりゅう」
大まかに言うとこの三種で呼ばれることが多い。
呉服関連業者、特に紋に触れる機会の多い紋章上絵師や直接紋入れに関わることの多い染色補正師(私も染色補正師)は主に「あまりょう」が多いように思える。
ここでは「あまりょう」で話しを進めて行くこととしよう。

【雨龍とはなにか?】
雨龍とは一体何なのかということだが、これも実に曖昧である。
どちらにしても龍ということに違いはなく、当然その発祥は中国である。
諸説あるが龍となる前の幼龍、つまり龍の子と解釈しても良いかも知れない。
長い年月を生きた鯉は死後に璃龍になるといわれ、これを、竜鯉(りょうり)という。
これは登竜門の語源とされ、竜鯉とは鯉の滝昇りのことであり、これは鯉幟(こいのぼり)の語源でもある。
長い年月を生きた狐は死後「九尾の狐」になるとか、長い年月を生きた猫は死後「化け猫」になるとか、そういう話しもあるが、その元となったネタであると思われる。
他にも井戸に住む小さな龍で臆病者の代名詞とされるものという話しもある。
正史なのか演義なのか詳しくは知らないが、三國志で劉元徳(劉備)を暗殺するために、とある人物(すみません。忘れました)が劉備の筆跡を真似(?)してとある手紙を書き、ある人物(これも忘れました)をバカにするという描写がある。
ここで用いられるのが璃龍であった。ようするに「臆病者め!」と罵ったわけだ。
ちなみに私がこれを何で知ったかというと、横山版「三国志」のマンガである。

【雨龍文様が中国に少なく日本に多い理由とは?】
さて、中国では「龍」は正に力の象徴であり、神の如くの存在とし、皇帝のシンボルとされた。
日本に中国より伝来した時期は不明ではあるが、日本では元々土着した信仰として、蛇神信仰があったが、後世それ融合、または混合していったようである。
現在、雨龍文様は日本では数多く存在するが、中国では少なく資料も乏しい。
何故このような逆転現象が起こっているのであろうか。
その理由として考えられるのは当然文化の違いにある。
中国ではより大きな力が求められたため、龍という絶対的なシンボルを崇めたのであろう。
璃龍は先ほども述べたように「臆病者」の代名詞とされたために多く用いられなかった。
日本で持て囃されたのはその姿の妙や身近な水神であるからだろう。
道ばたに生える雑草に心を打たれるという日本人独特の感性を示すかのようだ。
これも万物の全てに神が宿るという八百万の神々がいる日本独自の性質なのかもしれない。

【文様と家紋】
雨龍の絵
ちなみにこの雨龍の文様だが・・・実に面白い。
元々は中国より伝来した文様ではあるが、伝来当時はどうやら「流行らなかった」ようである。
その証拠に日本でも元々の形状の雨龍の絵はほとんど見られず文様としてもほぼ見られないのだ。
どういう経緯からなのかは全く不明であるが、家紋として用いられることにより意匠が安定したようなのだ。
文様から家紋へ、家紋から文様へと発展したのである。
現在では雨龍文様は着物などにも小紋柄としてもよく見られるが、これは家紋としての意匠を元にしたものなのである。
雨龍の初期の意匠は正に龍のようなものである(右図版参照。江戸時代の文献に載る雨龍)が、時代が下るとともに徐々に現在の文様の雰囲気となってくる。
家紋として用いられた理由は「成長」を意義とする。
また、その名の通り「水龍」であることから、水神として崇められ、雨龍に雨乞いをしたとも言われる。
家紋となった雨龍の意匠は「水」をモチーフとし、浪紋の雰囲気を持つ。目が丸いのは水しぶきを表現している。
ちなみに京都の天竜寺と南禅寺の寺紋として有名だ。


【墓石で見つけた変わった雨龍】
先日、墓地巡りをしていて、凄く妙な紋に出会った。
何度見てもその紋の形状がよく分からなかった。
辛うじて中央に「四つ目」があることが分かる程度であった。
何枚かを写真に収め、帰ってからじっくりと検証した結果それが「雨龍紋」であることが分かった。
彫り込みされ複雑な形状だったので非常にわかりにくい。
フォトショップで色々といじると非常に見やすくなった。
階調の反転などを行うとすぐにそれが何なのか判別出来ようになったのである。

それが、これだっ。1 2 3

抱き雨龍に平四つ目

雨龍が抱きで構成され、まるで四つ目を抱いているかのようだ。
私はこれに「抱き雨龍に平四つ目」と名付けた。
始めて出会った「雨龍紋」がこの紋であったことは非常に喜びである。




数年前、とある事柄から「ハンカチ」を作ることとなった。
家紋を入れることが前提での依頼であったため、父森本景一とそのモチーフに悩んだが結果として雨龍を選んだ。
父が紋帖『平安紋鑑』の「左雨龍」をモチーフにリデザインした。
二人で色々と話し合った結果、「臆病者を輝かせてやろうではないか」という結論となり、神々しくさせることとしたのである。
それを私がPCに取り込み、父の指定の色に彩色を行い、なおかつ自分自身でアレンジを色々行った。
某人気漫画のスーパーサ○ヤ人っぽいと思ったのは気のせいだと思いたい。
雨龍の位置は「日」を表す雰囲気で白ベースとして、まるで雨龍が輝いてるような印象とした。
ベースの「赤」はその当時書籍『女紋』が完成した頃であったということもあり、商品そのものにインパクトを与えたかったということでこの色とした。
少し見え隠れする「雲ぼかし」は父の創る着物「色想きもの」でよく使うものを使用。
左下には「大宮華紋」をイメージした落款(らっかん)風のロゴも入れた。

雨龍ハンカチ1
雨龍ハンカチ2

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最後の最後で宣伝に繋がってしまいまして申し訳ありません。

ARK@遊鵺




(有)染色補正森本の公式サイト内の「家紋研究」に新たに「雨龍」を追加しました。
ブログでは触れていないことなども追加しています。
是非ご覧下さい。

【雨乞い象徴紋 成長の瑞龍「雨龍」】
http://omiyakamon.co.jp/kamon/amaryo/
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蝙蝠紋

もう震災から約一ヶ月も経つんですね。
昨夜も大きな地震があり、まだまだ予断を許さない状況です。
様々な問題を抱えた我が国日本ですが、なんとかこの困難を乗り越えていきたいものです。

こちら京都は随分暖かくなってきました。
二条城の前を通ると付近の桜も咲いてますし、さぞや二条城内の桜を綺麗に咲いていることでしょう。
「桜」に紋について書きたくなる季節ですが、今回は全く違います。
まぁ、まだまだ花粉も飛んでますし、中国からの黄砂も酷いですね。
車がかなり黄色いですよ・・・。




暖かくなってきたということでそろそろ見かけるんじゃないかと思うのが蝙蝠。
夜になると街灯の周りにいる虫を狙ってよく飛んでる姿を見かけると思う。
っと、言うわけで随分前置きが長くなったが、本日のブログは「蝙蝠」について綴ることとしよう。

先に簡単ですが蝙蝠について説明しておく。

蝙蝠はコウモリ目(翼手目)に属する自力飛行が出来る唯一のほ乳類。
中国では「福が偏って来る」という「偏福」に通じるとして幸運の象徴とされ、それは意味は日本にも渡来し吉兆とされた。
「こうもり」の語源は「加波保利(かはほり)」といい、これが川を守る意の「川(河)守(かわもり)」に転化したといわれ、蝙蝠の字があてられたという。
一日に数百の小さな虫を食べることから、農作業の害虫から守ってくれる動物として別名を蚊喰鳥(かくいどり)という。


さて、これで分かって頂けたかと思うが、蝙蝠は吉兆で扱われる動物だ。
西洋ではその姿形の不気味さや吸血の種がいることから古来より忌み嫌われ現在不吉の象徴とされる。
ブラム・ストーカーの小説「ドラキュラ」では、ルーマニアのトランシルバニアの串刺し王の異名を持つブラド・ツェペシュがそのモデルとし、トレードマークであるマントがコウモリが連想された。
そのイメージを逆に取り入れたものがアメコミのダークヒーロー『バットマン』であろう。
幾度となく映画化され、近年では『ダークナイト』が記憶に新しい。
ちなみに私も『バットマン』は好きで特にティム・バートンが監督したリメイクの『バットマン』に魅力を感じる。
この余談はさらに加速して少し方向性を見失うが、あえて書かせて欲しい。
日本で蝙蝠のイメージを持つものと言えばなにか?
私の父親くらいの世代となると『黄金バット』。
私の世代や現在40代くらいの方だと永井豪の『デビルマン』だろう。
主要キャラとしてのコウモリのキャラクターは他になにかあっただろうか?
特撮ものなどでは敵(怪人など)として見かけるが・・・。
ちなみに以前webサイト「大宮華紋森本」内の「家紋研究」で「蝙蝠紋」について掲載したことがある。
その際、「デビルマンの紋」を掲載したことがある。この紋については下記URLより見て頂きたい。

http://omiyakamon.co.jp/kamon/koumori/02.html

これは「デビルマン」をこよなく愛する私が父に依頼して頼んだものだ。
このデビルマンのシルエットは『デビルマン』の続編である『バイオレンスジャック』の物語後半で見られるものを採用した。
あえて紋名をつけるのであれば「月に悪魔男」といったところであろうか。


さて、このように世界の多くで不吉の象徴とされるコウモリを吉兆とする我が国であるが、「吉兆」と言っているわりには文様は非常に少ない。
蝙蝠文様の元祖である中国では様々なもので文様は見られる。
私が多く見かけるなと思うのは主に陶器をはじめとする焼き物ではないだろうか。
日本では江戸後期に歌舞伎役者七代目市川團十郎が蝙蝠の柄を流行らせた。
実際に舞台衣装に蝙蝠の文様を飛ばせるなどしていたのだ。

インターネットや様々な家紋の書籍を読むと極まれではあるが、この七代目「市川團十郎」が蝙蝠の柄を流行らせ、「蝙蝠紋を替え紋」とした、という記述を見かけることがある。
ところがいくら調べても市川團十郎が使用した蝙蝠の替え紋というものは一切見つからないのだ。
らちがあかないと判断した私は市川團十郎事務所に直接メールで問い合わせたことがある。
その答えは
「市川團十郎家の家紋はあくまで三升、掘越家の家紋は近衛牡丹、それを簡略化して舞台で使うようにした替え紋が杏葉牡丹、これしかありません」
とのことだった。
蝙蝠は柄だけであるということであった。

『日本紋章学』に沼田頼輔氏が「市川團十郎が蝙蝠文様を流行らせた」と書いたことを勘違いして、書いた方がおられるのではないだろうか、と安易に推測しておく。

では肝心の蝙蝠紋を使用されたのかどうかということについて触れておく。

文献では中国から帰化した張季明の後胤の山本氏が唯一載る。しかし図案がどのような形状か定かではないのである。
このことからも蝙蝠紋は大変稀少であるといえる。
紋帖にはいくつか載るがそれを山本氏が使用したのかどうかは分からない。
※蝙蝠紋は下記URLよりご覧下さい。
http://omiyakamon.co.jp/kamon/koumori/03.html
http://omiyakamon.co.jp/kamon/koumori/07.html


家紋では無いが他に「紋」のような形状をしているもののいくつかをご紹介しておく。

【福砂屋】
カステラ屋の福砂屋が屋号として使用する。
詳しくは下記URLより。
http://www.castella.co.jp/fukusaya/fuku4.shtml

【福山市の市章】
広島県福山市が市章として使用する。福山城がある蝙蝠山にちなんだ。
詳しくは下記URLより。
http://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/hishokoho/profile/
ちなみに福山市は「バラの町」としてアピールしているため、薔薇をモチーフにしたシンボルマークに統一するという話しが出ているそうだ。蝙蝠を不吉と考える方が多いためか、対立し議論を巻き起こしているという。
蝙蝠の意味がしっかりと浸透していないのだろう。

【旧日本石油の社章】
旧日本石油の社章は蝙蝠をモチーフとした。
森本景一著書の『家紋を探る』ではこの社章を掲載したが今手元に画像が無いので下記URLで確認して頂きたい。
http://www.yutaka-shokai.co.jp/since1924/2_06.html


さて、我が社(染色補正森本)では今までに多く「月に蝙蝠」を紋入れしてきた。
「月に蝙蝠」とは紋帖『平安紋鑑』に唯一載るものである。
これは家紋として使用された記録は無く、恐らく図案、洒落紋として掲載されてたものであろう。
『平安紋鑑』以前の紋帖にも載らず、古い文献などにも載らず、また似た形状の文様も見つからない。
この紋では蝙蝠は写実的に描かれているため、近代期に創作されたものには違いないであろう。
『平安紋鑑』の初版にも掲載されていることから、これは当時の京都の紋章組合(上絵師の組合)のどなたかが創作されたものなのであろう。
私自身、家紋以外での紋章として一番好きな紋であることは間違いない。
洗練されたデザイン性は今も尚色あせることなく、紋帖の中から飛び出し、様々なところに飛び立っている。

Tシャツへのデザインなども見かけることがある。
次世代では家紋として採用される方も現れ、墓石にも見られる日が来るのであろうか。

月に蝙蝠



※現在執筆中の事典では、紋帖において月、桐、柏に掲載される図案全てを蝙蝠紋としてまとめさせて頂いている。

ARK@鵺遊

揚羽蝶はアゲハチョウではない

近年、オリジナルの紋を作る方が増えてきた。
プロの方から素人の方まで様々だ。
インターネットで家紋について色々調べていると、
そういった方々のサイトやブログに出くわすこともしばしばある。

時折見かけるのが紋の「揚羽蝶」をモチーフにされていることもある。
紋の「揚羽蝶」は平氏の紋としても有名で、
平氏族であるという主張をするために揚羽蝶を用いた氏族も多い。
大変人気の高い紋であり、女紋として使用されることも多い。
余談だが、出雲の阿国の紋はこの揚羽蝶であるといわれる。

揚羽蝶



さて、本題だが、この揚羽蝶を「アゲハチョウ」と勘違いされている方が非常に多いのだ。
アゲハチョウはアゲハチョウ科に属する蝶であるが、紋章に用いられるのはこのことではない。

このネーミングは実に単純で「羽を上げてとまる」から「揚羽蝶」なのである。

そして逆に「羽を臥(伏)る」のが臥蝶(ふせちょう)である。

臥蝶はそのほとんどの紋帖や紋図鑑において、「浮線蝶」と表記される。
浮線綾(ふせんりょう)に蝶文様が増えたことで臥蝶丸(ふせちょうのまる)と呼ばれるようになったが、やがて浮線の意が蝶を意味するようになったと考えられる。(詳しくはいずれ文様紋「浮線綾」を書きたいと思う)


浮線蝶


何度も言うが、揚羽蝶はアゲハチョウではない。お間違えの無いように。
プロフィール

森本勇矢

Author:森本勇矢
京都市在住。41歳。
本業である染色補正の傍ら家紋研究家として活動する。
一般社団法人京都家紋協会代表。
京都家紋研究会会長。
日本家紋研究会副会長。
月刊『歴史読本』への寄稿をする他、新聞掲載・TV出演など。
著書『日本の家紋大辞典』(日本実業出版社)
家紋制作、家系調査などのお仕事お待ちしております。
ご連絡はFacebook、Twitter、Instagramなどからお願いします。

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